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大阪地方裁判所 昭和30年(わ)2823号 判決

主文

被告人柳長清を懲役一年六月に

被告人重松良雄、同藤原善一を各懲役一年に

被告人浅井千之助を懲役八月に

被告人鈴木宇一、同宗守弘雄、同原田文男、同松浦寛を各懲役六月に

被告人林明良を懲役四月に

被告人趙一知を懲役三月に

各処する。

ただし、この裁判確定の日から、被告人柳長清に対しては三年間、被告人重松良雄、同浅井千之助、同鈴木宇一、同藤原善一、同原田文男に対しては各二年間、被告人宗守弘雄、同松浦寛、同林明良、同趙一知に対しては各一年間いずれも右刑の執行を猶予する。

被告人柳長清より金参千九拾万参千五百五円、被告人重松良雄より金九百六拾弐万五千弐百円、被告人浅井千之助より金参百拾弐万四千八百円、被告人趙一知より金五拾八万八千円を各追徴する。

訴訟費用中、国選弁護人西村承治に支給した分は被告人藤原善一の負担、国選弁護人岡田政司、証人辻政末、同山田秀雄、同桜井忠一に各支給した分はいずれも被告人趙一知の負担、証人辻伊三郎、同赤井康純、同柳長清、同大塚敏に各支給した分の二分の一は被告人林明良の負担とする。

被告人山本栄次は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人重松良雄は外国貿易を目的とする重松貿易株式会社の社長をしていたもの、被告人柳長清は春和貿易公司という商号で貿易商をしていたもの、被告人浅井千之助は金融業を目的とする毎日相互商事の代表取締役をしていたが事業に失敗して整理中であつたもの、被告人鈴木宇一は税関貨物取扱業を目的とする第一商運株式会社の名義を借りて通関業務を営んでいたもの、被告人趙一知は物品のブローカーをしていたもの、被告人林明良は工業薬品並びに油脂、香料などの販売を目的とする株式会社山本栄商店の社員をしていたもの、被告人藤原善一は税関貨物取扱業を目的とする熊谷海運有限会社の社員をしていたもの、被告人宗守弘雄は自動車部分品の製造並びに国内卸販売及び輸出入を目的とする中央自動車工業株式会社の輸出課長をしていたもの、被告人原田文男は海運貨物取扱業を目的とする三益運輸株式会社の専務取締役をしていたもの、被告人松浦寛は毛織物並びに裏地の国内販売及び輸出入などを目的とする糸岡株式会社の社員をしていたものであるが、

第一、被告人重松良雄、同柳長清、同浅井千之助の三名は浅田万太郎と順次共謀の上、外国製ハツカ脳を無税品の桂皮油のように偽装して不正に輸入し、その関税を免がれようと企て、昭和三十年一月二十四日頃、さきに香港より到着して神戸市生田区新港町の神戸港第三突堤所在「K」保税上屋に蔵置中の外国製ハツカ脳六百斤(原価百六十二万円、価格二百二十三万二千円)につき、神戸海運株式会社社員浜岸昇をして神戸税関に対し、品名を桂皮油と記載した虚偽の輸入申告書を提出させ、同税関職員をその旨欺罔して輸入許可を受け、同月二十五日頃、右保税上屋より大阪市東区豊後町五十五番地所在の柏木運送株式会社営業所に引取り、もつて詐偽その他不正の行為により右ハツカ脳に対する関税三十二万四千円を逋脱し、

第二、被告人重松良雄、同柳長清、同鈴木宇一の三名は順次共謀の上、前同様の手段で外国製ハツカ脳を輸入して関税を免れようと企て、同年四月十一日頃、さきに香港より到着して前記神戸港第四突堤所在「R」保税上屋に蔵置中の外国製ハツカ脳六百斤(原価百六十二万円、価格二百二十三万二千円)につき、情を知らない第一商運株式会社社員加藤泰章をして神戸税関に対し、品名を桂皮油と記載した虚偽の輸入申告書を提出させ、同税関職員をその旨欺罔して輸入許可を受け、同月十二日頃、右保税上屋より大阪市東区今橋四丁目一番地所在の三菱信託ビル内重松貿易株式会社倉庫に引取り、もつて詐欺その他不正の行為により右ハツカ脳に対する関税三十二万四千円を逋脱し、

第三、被告人重松良雄、同柳長清、同鈴木宇一の三名は順次共謀の上、前同様の手段で外国製ハツカ脳及びゴルフ球などを輸入して関税を免れようと企て、同年七月十四日頃、さきに香港より到着して前記神戸港兵庫突堤所在の保税上屋である住友倉庫に蔵置中の外国製ハツカ脳百五斤(原価二十八万三千五百円、価格三十九万六百円)及び英国製ダンロツプゴルフ球二百四十三ダース(原価四十八万六千円、価格百二万六百円)につき、情を知らない前記加藤泰章をして神戸税関に対し、品名を桂皮油と記載した虚偽の輸入申告書を提出させ、同税関職員をその旨欺罔して輸入許可を受け、同日頃、右保税上屋より前記重松貿易株式会社倉庫に引取り、もつて詐偽その他不正の行為により右ハツカ脳及びゴルフ球に対する関税合計十五万三千八百八十円を逋脱し、

第四、被告人重松良雄、同柳長清、同鈴木宇一の三名は干鏡波と順次共謀の上、英国製サントニンを無税品の桂皮油のように偽装して不正に輸入しその関税を免がれようと企て、同年八月二十三日頃、さきに香港より到着して前記神戸港第四突堤所在「R」保税上屋に蔵置中の英国製サントニン六十瓩(原価二百五十八万円、価格三百七十五万円)につき、情を知らない前記加藤泰章をして神戸税関に対し、品名を無税品の桂皮油と記載した虚偽の輸入申告書を提出せしめ、同税関職員をその旨欺罔して輸入許可を受け、同月二十四日頃、右保税上屋より前記重松貿易株式会社倉庫に引取り、もつて詐偽その他不正の行為により右サントニンに対する関税五十一万六千円を逋脱し、

第五、被告人浅井千之助は浅田万太郎と共謀の上、

(一)  同年五月上旬頃、大阪市東区今橋四丁目一番地三菱信託ビル内重松貿易株式会社において、被告人重松良雄より前記第二記載の関税逋脱に係るハツカ脳百五十斤(価格五十五万八千円)を代金百八万円位で、

(二)  同年五月中旬頃、右同所において、右同人より前同様のハツカ脳九十斤(価格三十三万四千八百円)を代金五十四万円位で、いずれもその情を知りながら買受け、もつて関税逋脱に係る貨物をそれぞれ有償で取得し、

第六、被告人趙一知は、同市東区南久太郎町二丁目五十番地平和ビル内春和貿易公司において、被告人柳長清より前記第三記載の関税逋脱に係る英国製ダンロツプゴルフ球を

(一)  同年七月十五日頃、二十一ダース(価格八万八千二百円)を代金十一万七千六百円位で、

(二)  同月十六日頃、五十ダース(価格二十一万円)を代金二十六万五千円位で、

(三)  同月二十九日頃、三十ダース(価格十二万六千円)を代金十五万九千円位で、

(四)  同年八月八日頃、三十九ダース(価格十六万三千八百円)を代金二十万二千八百円位で、

いずれもその情を知りながら買受け、もつて関税逋脱に係る貨物をそれぞれ有償で取得し、

第七、被告人林明良は、被告人重松良雄より前記第四記載の関税逋脱に係る英国製サントニンを

(一)  同年八月二十五日頃、前記重松貿易株式会社において、二十瓩を代金百五十万円で、

(二)  同月二十六日頃、同所において、五瓩を代金四十一万五千円で、

(三)  同年九月三日頃、同所において、十瓩を代金八十二万円で、

(四)  同月十二日頃、同市東区今橋一丁目一番地一番館ビル内株式会社山本栄商店において、十一瓩を代金八十八万円で、

(五)  同月二十日頃、同所において、九瓩を代金七十二万円で、いずれもその情を知りながら、株式会社山本栄商店のために買受け、もつて関税逋脱に係る貨物をそれぞれ有償で取得し、

第八、別紙第一「犯罪一覧表」各項の被告人欄記載の被告人らはそれぞれ当該共犯者欄記載の者らと共謀の上、通商産業大臣の輸出承認及び税関の輸出許可を受けない貨物を香港に密輸出しようと企て、同表申告年月日欄記載の日時に、同通関業者欄記載の税関貨物取扱人を通じて、同税関名欄記載の税関に対し、同申告名義欄記載の品名数量をそれぞれ香港に向けて輸出する旨記載した輸出申告書を提出し、予め通関検査用として準備した申告通りの偽装梱包によつて税関の検査を受けるなどの方法で同税関職員を欺罔して通関手続を了し、同船積年月日欄記載の日時に、同船積港欄記載の場所において、同本船名欄記載のいずれも香港向け船舶にはいずれも通商産業大臣の輸出承認及び税関の輸出許可を受けていない同実際輸出品欄記載の貨物を、それぞれ申告どおりの貨物のように偽装して船積しもつて右貨物につき通商産業大臣の輸出承認及び税関の輸出許可を受けないで密輸出し、

第九、被告人宗守弘雄は、干鏡波らが前記第八別紙第一の(12)(16)(17)及び(19)記載の日時場所において、同記載のとおり自動車部分品などを通商産業大臣の輸出承認及び税関の輸出許可を受けないで香港に向けて密輸出するに際し、同市北区宗是町四十四番地所在中央自動車工業株式会社において、右干鏡波に対し、

(一)  昭和三十年四月六日頃、自動車部分品「クラツチ、ギヤー」など二百八十個を代金十五万七千八百二十四円で、

(二)  同年七月十六日頃、同「ステアリングナツクル」など四百十万個を代金九十八万三千百四十円で、

(三)  同年八月十日頃、同「デストリビユーター」四十個を代金十万八千円で、

(四)  同年九月一日頃、同「スピンドルナツクル」など百個を代金十五万四千四百四十円で、

いずれも該品が密輸出される情を知りながら売却し、もつて右干鏡波らの前記犯行を容易ならしめてそれぞれ幇助し、

第十、被告人松浦寛は干鏡波、周起らと共謀の上、大阪通商産業局より羊毛製品輸出証明書を騙取しようと企て、

(一)  同年六月二十三日頃、同市東区京橋前之町所在大阪通商産業局において、情を知らない日本毛麻輸出組合事務員を介して同局係員に対し、前記第八別紙第一(14)記載のとおり大阪税関富島出張所より梳毛織物「ウーステツドサージ」千八百ヤールの輸出許可を受け実際は「スフサージ」千七百九十五ヤールをすり替えて香港に輸出したのに拘らず、その情を秘して真実右「ウステツドサージ」千八百ヤール(輸出FOB金額二百三十四万六千四百十四円)を輸出したように装つて右に対する羊毛製品輸出証明書の発行を申請し、同局係員をその旨誤信させ、よつて同年七月五日頃、同市東区高麗橋二丁目日本毛麻輸出組合事務所において、別紙第二(1)記載のとおりの同局発行の輸出証明書三通を右組合事務員を通じ交付を受けて騙取し、

(二)  同年七月二十七日頃、同所において、前同様の方法で前記第八別紙第一(15)記載のとおり大阪税関富島出張所より梳毛織物「ウーステツドサージ」同「ギヤバジン」及び同「ヘリンボンサージ」合計三千五百八十五・二五ヤールの輸出許可を受け実際は綿布八千六百四十ヤールをすり替えて香港に輸出したのに、その情を秘し真実右梳毛織物三千五百八十五・二五ヤール(輸出FOB金額四百六十五万五千七百十五円)を輸出したように装つて右に対する輸出証明書の発行を申請し、同局係員をその旨誤信させ、よつて同年八月十六日頃、前同所において、前同様の方法で別紙第二(2)記載のとおり同局発行の輸出証明書六通の交付を受けて騙取し

たものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(法令の適用)

被告人重松良雄の判示第一乃至第四の各行為はいずれも関税法第百十条第一項第一号、刑法第六十条に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は同法第四十五条前段の併合罪の関係にあるので同法第四十七条本文、同第十条を各適用して最も重い判示第四の罪の刑に併合罪の加重をなし、その刑期範囲内で同被告人を懲役壱年に処し、同法第二十五条第一項を適用してこの裁判確定の日から弐年間右刑の執行を猶予することにし、

判示第一乃至第四に掲記の貨物はいずれも没収することができないので関税法第百十八条第二項を適用してその価格に相当する合計九百六十二万五千二百円を同被告人より追徴する。

被告人柳長清の判示第一乃至第四の各行為はいずれも関税法第百十条第一項第一号、刑法第六十条に、判示第八別紙第一の(1)乃至(9)、(12)、(13)、(16)乃至(19)の各行為のうち税関の許可を受けないで貨物を輸出したとの点は関税法第百十一条第一項、刑法第六十条に、通商産業大臣の承認を受けないで貨物を輸出したとの点は外国為替及び外国貿易管理法第四十八条、同第七十条第二十二号、輸出貿易管理令第一条第一項第一号、刑法第六十条に各該当するところ、右の関税法違反の罪と外国為替及び外国貿易管理法違反の罪とは一個の行為にして二個の罪名のふれる場合であるから刑法第五十四条第一項前段、同第十条を各適用していずれも重い関税法違反の罪の刑で処断することにし、以上の各罪につきそれぞれ所定刑中懲役刑を選択するが、右の各罪は同法第四十五条前段の併合罪の関係にあるので同法第四十七条本文、同第十条を各適用して重い判示第四の罪の刑に併合罪の加重をなし、その刑期範囲内で同被告人を懲役壱年六月に処し、同法第二十五条第一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することにし、判示第一乃至第四、同第八別紙第一(1)乃至(9)、(12)、(13)、(16)乃至(19)に掲記の貨物はいずれも没収することができないので関税法第百十八条第二項を適用してその価格に相当する合計三千九十万三千五百五円を同被告人より追徴する。

被告人浅井千之助の判示第一の行為は関税法第百十条第一項第一号、刑法第六十条に、判示第五の各行為はいずれも関税法第百十二条第一項、刑法第六十条に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は同法第四十五条前段の併合罪の関係にあるので同法第四十七条本文、第十条を各適用して最も重い判示第一の罪の刑に併合罪の加重をなし、その刑期範囲内で同被告人を懲役八月に処し、同法第二十五条第一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することにし、判示第一及び第五に掲記の貨物はいずれも没収することができないので関税法第百十八条第二項を適用してその価格に相当する合計三百十二万四千八百円を同被告人より追徴する。

被告人鈴木宇一の判示第二乃至第四の行為はいずれも関税法第百十条第一項第一号、刑法第六十条に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は同法第四十五条前段の併合罪の関係にあるので同法第四十七条本文、第十条を各適用して最も重い判示第四の罪の刑に併合罪の加重をなし、その刑期範囲内で同被告人を懲役六月に処し、同法第二十五条第一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することにし、判示第二乃至第四に掲記の貨物はいずれも没収することができないが、同被告人は判示第二乃至第四の犯行に際し通関手続に関与したにすぎないと認められ、前記貨物の所有者でなかつたことが明らであるから、後記の理由により関税法第百十八条第二項による追徴をしないことにする。

被告人趙一知の判示第六の各行為はいずれも関税法第百十二条第一項に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法第四十五条前段の併合罪の関係にあるので同法第四十七条本文第十条を各適用して最も重い判示第六の(二)の罪の刑に併合罪の加重をなし、その刑期範囲内で同被告人を懲役三月に処し、同法第二十五条第一項を適用してこの裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予することにし、判示第六に各掲記の貨物はいずれも没収することができないので関税法第百十八条第二項を適用してその価格に相当する合計五十八万八千円を同被告人より追徴する。

なお訴訟費用中、国選弁護人岡田政司に支給した分及び証人辻政末、同山田秀雄、同桜井忠一に支給した分は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従つて全部同被告人の負担とする。

被告人林明良の判示第七の各行為はいずれも関税法第百十二条第一項に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法第四十五条前段の併合罪の関係にあるので同法第四十七条本文第十条を各適用して最も重い判示第七の(一)の罪の刑に併合罪の加重をなし、その刑期範囲内で同被告人を懲役四月に処し、同法第二十五条第一項を適用してこの裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予することにし、判示第七に各掲記の貨物はいずれも没収することができないが、同被告人は右貨物をいずれも株式会社山本栄商店の使用人として同会社のために買受けたものであつて、同貨物の所有者でなかつたことが明らかであるから、後記の理由により関税法第百十八条第二項による追徴をしないことにする。なお訴訟費用中、証人柳長清、同大塚敏、同辻伊三郎に支給した分は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従つてその各二分の一を同被告人の負担とする。

被告人藤原善一の判示第八別紙第一の(1)(5)乃至(9)、(12)、(13)、(16)乃至(19)の各行為のうち税関の許可を受けないで貨物を輸出したとの点はいずれも関税法第百十一条第一項、刑法第六十条に、通商産業大臣の承認を受けないで貨物を輸出したとの点は外国為替及び外国貿易管理法第四十八条、同第七十条第二十二号、輸出貿易管理令第一条第一項第一号、刑法第六十条に各該当するところ右の関税法違反の罪と外国為替及び外国貿易管理法違反の罪とは一個の行為にして二個の罪名にふれる場合であるから刑法第五十四条第一項前段、同第十条を各適用していずれも重い関税法違反の罪の刑で処断することにし、以上の各罪につき所定刑中いずれも懲役刑を選択するが、右の各罪は刑法第四十五条前段の併合罪の関係にあるので同法第四十七条本文、同第十条を各適用して重い判示第八別紙第一の(18)の関税法違反の罪の刑に併合罪の加重をなし、その刑期範囲内で同被告人を懲役一年に処し、刑法第二十五条第一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することにし、判示第八別紙第一の(1)、(5)乃至(9)、(12)、(13)、(16)乃至(19)に掲記の貨物はいずれも没収することができないが、同被告人は右各犯行に際して通関手続に関与したにすぎないと認められ、前記貨物の所有者でなかつたことが明らかであるから、後記の理由により関税法第百十八条第二項による追徴をしないことにする。なお訴訟費用中国選弁護人西村承治に支給した分は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従つて全部同被告人の負担とする。

被告人宗守弘雄の判示第八別紙第一の(10)(11)の行為のうち税関の許可を受けないで貨物を輸出したとの点はいずれも関税法第百十一条第一項、刑法第六十条に、通商産業大臣の承認を受けないで貨物を輸出したとの点は外国為替及び外国貿易管理法第四十八条、同第七十条第二十二号、輸出貿易管理令第一条第一項第一号、刑法第六十条に判示第九の各行為のうち税関の許可を受けないで貨物を輸出するのを幇助したとの点はいずれも関税法第百十一条第一項、刑法第六十二条第一項に、通商産業大臣の承認を受けないで貨物を輸出するのを幇助したとの点は外国為替及び外国貿易管理法第四十八条、同第七十条第二十二号、輸出貿易管理令第一条第一項第一号、刑法第六十二条第一項に各該当するところ、右の関税法違反の罪と外国為替及び外国貿易管理法違反の罪とは一個の行為にして二個の罪名にふれる場合であるから刑法第五十四条第一項前段、同第十条を各適用していずれも重い関税法違反の罪で処断することにし、以上の各罪につき所定刑中いずれも懲役刑を選択するが、判示第九の関税法違反の各行為はいずれも幇助であるから同法第六十三条、同第六十八条第三号を各適用して法律上の減軽をなし、これらと判示第八別紙第一の(10)、(11)の関税法違反の罪とは刑法第四十五条前段の併合罪の関係にあるので同法第四十七条本文、同第十条を各適用して重い判示第八別紙第一の(10)の関税法違反の罪の刑に併合罪の加重をなし、その刑期範囲内で同被告人を懲役六月に処し、刑法第二十五条第一項を適用してこの裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予することにし、判示第八別紙第一の(10)、(11)及び判示第九に掲記の貨物はいずれも没収することができないが、同被告人は本件犯行当時いずれも右貨物の所有者でなかつたことが明らかであるから、後記の理由により関税法第百十八条第二項による追徴をしないことにする。

被告人原田文男の判示第八別紙第一の(10)、(11)、(14)、(15)の各行為のうち税関の許可を受けないで貨物を輸出したとの点はいずれも関税法第百十一条第一項、刑法第六十条に、通商産業大臣の承認を受けないで貨物を輸出したとの点は外国為替及び外国貿易管理法第四十八条、同第七十条第二十二号、輸出貿易管理令第一条第一項第一号、刑法第六十条に各該当するところ、右の関税法違反の罪と外国為替及び外国貿易管理法違反の罪とは一個の行為にして二個の罪名にふれる場合であるから刑法第五十四条第一項前段、同第十条を各適用していずれも重い関税法違反の罪の刑で処断することにし、以上の各罪につき所定刑中いずれも懲役刑を選択するが、右の各罪は刑法第四十五条前段の併合罪の関係にあるので同法第四十七条本文、同第十条を各適用して重い判示第八別紙第一の(10)の関税法違反の罪の刑に併合罪の加重をなしその刑期範囲内で同被告人を懲役六月に処し、刑法第二十五条第一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することにし、判示第八別紙第一の(10)、(11)、(14)、(15)に掲記の貨物はいずれも没収することができないが、同被告人は右犯行に際して通関手続に関与したにすぎないと認められ、前記貨物の所有者でなかつたことが明らかであるから、後記の理由により関税法第百十八条第二項による追徴をしないことにする。

被告人松浦寛の判示第八別紙第一の(14)、(15)の各行為のうち税関の許可を受けないで貨物を輸出したとの点はいずれも関税法第百十一条第一項、刑法第六十条に、通商産業大臣の承認を受けないで貨物を輸出したとの点は外国為替及び外国貿易管理法第四十八条、同第七十条第二十二号、輸出貿易管理令第一条第一項第一号、刑法第六十条に、判示第十の各行為は刑法第二百四十六条第一項、同第六十条に各該当するところ、右の関税法違反の罪と外国為替及び外国貿易管理法違反の罪とは一個の行為にして二個の罪名にふれる場合であるから刑法第五十四条第一項前段、同第十条を各適用していずれも重い関税法違反の罪の刑で処断することにし、所定刑中懲役刑を選択するがこれらと判示第十の各罪とは刑法第四十五条前段の併合罪の関係にあるので同法第四十七条本文、同第十条を各適用して重い判示第十の(二)の罪の刑に併合罪の加重をなし、その刑期範囲内で同被告人を懲役六月に処し、同法第二十五条第一項を適用してこの裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予することにし、判示第八別紙第一の(14)、(15)に掲記の貨物はいずれも没収することができないが、同被告人が右貨物の所有者でなかつたことが明らかであるから、後記の理由により関税法第百十八条第二項による追徴をしないことにする。

(関税法上の追徴に関する当裁判所の見解)

関税法第百十八条第二項には追徴に関する規定が設けられているのであるが、同条項には追徴するべき者についてただ単に「犯人」とのみ規定されているに過ぎないので、そこにいわゆる「犯人」とはいかなる範囲の者を指すのかしかく明白でない。ことに数人共同して同条第一項本文所定の犯罪が行われた場合、その全員に対して追徴をするべき趣旨かどうか、いささか問題の存するところである。

ところで、関税法において、犯罪に係る貨物を没収し、又は没収することのできない場合においてその価格に相当する金額を追徴する趣旨は、国家が同法規に違反して輸出入した貨物又はこれに代るべき価格が犯人の手に存在することを禁止し、もつて密輸出入の取締を厳に励行せんとするに出たものと解すべきであつて、共犯者ある場合において、追徴すべき価格につき共同連帯の責任において納付せしむべきものとされているのは、右禁止の趣旨を貫徹せんとするにあると考えられる(大審院昭和十年四月八日判決、判例集十四巻三九一頁以下、最高裁判所第一小法廷昭和三十三年三月十三日判決、判例集十二巻三号五二七頁以下参照)即ち、共犯者のある場合においても、犯罪に係る貨物などが没収しうる場合には、それをいずれから没収するにしても、その物を没収しさえすれば右禁止の趣旨は理論上きわめて徹底して行われるのであるが、没収不能の場合には、犯罪の性質上、犯罪貨物などの所有者が誰れであるか、換言すると犯罪貨物などに代るべき価格がいずれのものに保有されているか明白でない場合が多いので、右趣旨を徹底させるため、追徴すべき価格につき各共犯者共同連帯の責任において納付せしむべきものとせられていると考えられる。従つて、共に起訴された共犯者の一人又は数人がその物の所有者であることが明白な場合には、必ずしも右共犯者全員のそれぞれに対して、各独立して物の価格全額の追徴を命じなければならぬものと解すべきではなく、その物の所有者である被告人のみに対して追徴を命ずることも許すと解するのを相当とする(最高裁判所大法廷昭和三十三年三月五日判決、判例集十二巻三号三八四項以下参照)。そして、共に起訴きれるかどうかということは被告人の意思によつて左右しがたいものであるから、右の結論を共に起訴された共犯者の中に犯罪貨物などの所有者がいる場合に限定すべきいわれはなく、むしろ、関税法における追徴の趣旨は、前述のように、犯罪貨物などに代るべき価格の存在の禁止という点にあるのであるから、当該被告人が犯罪貨物などの所有者でないことが明らかな場合には、それに代るべき価格の保有者と認められないとして、その者に対して追徴を命ずる必要はないものと考える。このように考えないと、犯罪貨物などの所有者以外の共犯者は、その物が没収しうる場合には何ら経済上の実害を受けないのに、没収不能のためにそれに代るべき措置として追徴を命ぜられることになると、多かれ少かれ経済上の実害を受けるに至るという不合理な結論を招来するばかりでなく、関税法がその第百十八条第一、二項において犯人以外の者が犯罪貨物などを犯行時より引続き善意で所有している場合、即ち犯人が犯罪貨物などの所有者でないことが明白な場合に没収はもとより犯人に対し追徴をも命じないとしている趣旨にそぐわない結果になると思われる。

かくして関税法第百十八条第二項にいわゆる「犯人」には犯罪貸物などの所有者でないことが明らかな犯人を含まないと解するわけであるが、今これを本件についてみると、被告人重松良雄、同柳長清、同浅井千之助、同趙一知を除くその余の被告人らは、いずれも本件犯行当時判示犯罪に係る貨物の所有者(ここで云う所有者とは価格の保持という観点から論ぜられているのであるから私法上の所有権者の概念とは異るところがあるものと考える。)でなかつたことが明白であるから、いずれも追徴を命じなかつたのである。

(被告人山本栄次に対する無罪理由)

被告人山本栄次は、同林明良と共謀の上、判示第七記載のような罪を犯したとして公訴の提起を受けている者であるが、その買受けに係るサントニンがいずれも関税を免れて密輸入されたものであることの情を知つていたとの点について、検察官提出の全立証をもつてするもその証明が充分であるとは認められないので、右の事実(昭和三十年十二月十五日付起訴状第八の事実)については「犯罪の証明がない」から刑事訴訟法第三百三十六条に従つて無罪の言渡をする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 網田覚一 裁判官 鈴木弘岡次郎)

〈以下省略〉

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